『服従の心理』 異を唱える勇気
スタンレー・ミルグラム『服従の心理』山形浩生訳、河出文庫、2012。
見ず知らずのオッサンから「あの人を殴ってくれ」と言われたとき、きっと殴らないだろうと思う。
人を傷つけてはならない、というのは常識だからだ。
このような常識を破るやつは「よっぽどのワル」かサイコパスくらいだろう。
しかし、その常識は簡単に崩すことができる。
人は意外にも他人を簡単に傷つけるようになってしまう。
本書は、このことを明らかにしている。
スタンレー・ミルグラムは、アメリカの研究者だ。
そして次のような実験を行うことにした。
実験に協力者してくれる人を2人連れてきて、
1人を回答者、もう1人を採点者にして、簡単な記憶テストを1問ずつ行ってもらう。
回答者は電気が流れるイスに座ってもらい、採点者は回答者から見えない位置に、実験を行う先生と一緒に座ってもらう。
実験を行う先生は、採点者に、
「回答者が回答を間違えるたびに、電気ショックを与えるように。」
と指示する。
最初はピリッとくる程度の電気ショックだが、
間違う数が多くなるごとに、電気ショックの強さはどんどん強くなる。
最終的には人体に危険なレベルまで電気ショックの強さを強くすることができる。
こんな電気ショックを与える理由についても、実験を行う先生からきちんと説明がある。
「電気ショックを与えた方が、一生懸命になって、記憶力が上がることを確認するためだ。」
ここからがこの実験の面白いトリックなのだが、実は採点者以外は全て仕掛け人だ。
回答者はわざと回答を間違える。
そうすると実験者が電気ショックを与えるように指示する。
採点者は電気ショックのボタンを押すが、そのボタンは作り物で、本当は電気は流れない。
だが、回答者は電気ショックを受けて痺れる演技をする。
わざと間違える回数が多くなるたびに、
回答者の演技には力がこもり、悲鳴を上げたり、「自分は心臓が悪いんだ!」「実験を中止しろ!」と叫んだり、何も言葉を発さなくなったりする。
ミルグラムが実験で確認したかったのは、
電気ショックが記憶力に与える影響ではなく、
この可愛そうな(演技をする)回答者のために、採点者が電気ショックを与えるのをやめるのかどうかだった。
ミルグラムの仲間たちは、実験の結果を次のように予想していた。
多くの人は、こんな目的の実験で、人に電気ショックを与える続けるはずがない。
回答者が「やめてくれ!」と叫んだ時点でやめるだろうし、
ましてや「危険」と書かれた電気ショックのボタンを押そうとも思わないだろう。
おそらくボタンを押し続けるのは、1000人に1人くらいだろう。
しかし、実験結果は予想外のものだった。
40人中26人もの採点者が、最強のボタンを押したのだった。
この結果は、65%の人が、回答者役の人が泣き喚こうと、絶叫しようと、電気ショックを加え続けたということを意味する。
もちろん、途中で「回答者が痛がっていますが、どうしますか?」とほとんどの採点者が実験者に尋ねた。
しかし、実験者は「大丈夫です。」「続けてください。」「続けてくれないと困ります。」「電気ショックが健康に影響することはありません。」などと言って、採点者に電気ショックを与えるように指示し続ける。
このように指示を受けても、実験を自分の考えで中止する人もいたが、65%の人は、
「実験する先生がそういうなら・・・・・・。」
ということで、ボタンを押し続けた。
4 この実験結果は何を意味するのか
多くの人は、自分より偉そうな人(難しい言葉だと「権威のある人」。今回は実験を行う先生)から指示されたり、命令されたりすると、
それがたとえ他人を傷つける指示であろうと、その指示に従ってしまう。
このことが、実験から明らかになったのだ。
誰もが持っている、「人を傷つけてはいけない」という常識は、
「大丈夫だからやれ」
という一言で簡単に崩すことができるのだ。
5 そのほかの実験
ミルグラムは他にも実験を行っている。
例えば、採点者を回答者の側に置いたら、同情してボタンを押すのをやめるのではないか。
実験を行う先生を2人に増やして、1人はボタンを押すように、もう1人は実験を中止するように指示したらどうするか。
実験を行う先生に反抗する役の人を何人か置いたらどうなるか。
などなど。
この実験はあくまでも実験だが、自分達の周りに目を向けてみたい。
正しくないことを指示することはよくある。
しかし、そういう場合でも、何となく言いだせずに、従ってしまうことはよくある。
そんなときに「それは間違っているんだよ」ということは難しいし、
間違った指示に従わないよう抵抗することは、もっと難しい。
ただ、指示に従ってしまった人もやはり悪いことをしたことは間違いない。
「自分は指示に従っただけなんです。」は下手な言い訳にしかならない。
抗議の声を上げる、指示に従わない(不服従)を貫く。
そういう勇気を持って一歩踏み出さなければならない時があるかもしれない。
そんなときこの本に書かれてある事は参考になるのかもしれない。
