『西原理恵子×月乃光司のおサケについてのまじめな話』 「家族が憎しみあわないために」
家族が憎しみ合わないために。
それが本書の目的である。
西原理恵子月乃光司のおサケについてのまじめな話 アルコール依存症という病気
- 作者: 西原理恵子
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2010/07/01
- メディア: 単行本
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西原理恵子の漫画には、よく心をえぐられた。
こちらの本は漫画というよりも体験記が主。
それも、西原理恵子の亡くなった元夫のアルコール依存症についての体験記だ。
具体的にどのような辛い思いを抱いたのかという記述はあまり厚くない。
この本は、アルコール依存症の患者を家族に持つ人たちへ向けて書かれているから、
こんなつらい思いをするんだよという思い出を共有する必要はないのだ。
日本中に、それぞれのつらい思いを抱きながら過ごしている人がいるのだから。
体験記とは別に中心的に述べられているのは、家族側の視点の問題だ。
家族が我慢してアルコール依存症患者を支えること。
それが必ずしも患者の為にならないということが強調される。
わたしがいちばん後悔しているのは、六年間、がまんしてしまったことです。もうちょっと早く離婚して、捨ててあげれば、彼ももっと早く治療につながって、人として長く生きられたんではないかと思うことがあります。(24頁)
これを専門用語で「底つき」というのだそうだ。
どん底に落ちて、断酒を自発的に決意させる。
これは非常に苦しい選択であり、状況だ。
そこまでたどりついても、アルコール依存症は一生涯治療が必要な病気だ。
つまり断酒という治療である。
これは作家の月乃光司が体験記にリアルに書いている。
飲んだら元の木阿弥、生きる道は断酒のみ。(50頁)
月乃光司は自身がアルコール依存症であり、底つきから回復しようとしている人だ。
西原は
「一生飲まない。」という確かな治療法があります。(4頁)
と述べ、希望を持たせるが、これは反面で、辛い治療が続くということだ。
それでもなお、酒を止めたいという強い気付きが必要になる。
(家族や大切なものがもともとない人間は、どうやって気付きを得るのだろうか。)
家族と患者本人、それぞれの視点から見たアルコール依存症が大変苦しい筆致で描かれる。
アルコール依存症に少しでもかかわりのある人は読んだ方が良い一冊だろうと思う。