『死刑執行された冤罪・飯塚事件 久間三千年さんの無罪を求める』 

飯塚事件弁護団編『死刑執行された冤罪・飯塚事件 久間三千年さんの無罪を求める』 

 

 「弁護人の意見を申し上げます。被告人は無罪です。」

 

 弁護人が裁判官や裁判員に向かって語りかける。

 弁護人の前のベンチには、犯人として裁判にかけられた被告人が座っている。

 ドラマで良く見るシーンだ。

 弁護人が被告人の味方になって刑事裁判で述べる意見を弁論という。

 その弁論の内容が記された書面を弁論要旨という。

 

 この本は飯塚事件という刑事事件の弁論要旨のようなものだ。

 飯塚事件の弁護人が被告人久間三千年氏の無実を主張する小冊子だ。

 

 もっとも、久間氏はすでにいない。

 平成初めに起きた2名の被害者の誘拐・殺人事件で死刑判決を受け、処刑されたからだ。

 被告人がこの世にいなくても、飯塚事件の弁護人はその無実を争っている。

 一度確定した裁判のやり直し(再審)を求めているのだ。

 久間氏の遺族のためでもあり、司法が無実の人間を殺した責任を問うために。

 この司法には弁護人自身の責任も含んでいる。

私たちの怠慢が死刑執行を許したのではないか、そうした思いから、私は、この9年間を針のむしろに据えられているとの思いを抱きながら、再審に取組んできた。(3頁・「はじめに」より)

 ひいては死刑制度自体への問題提起も暗に行っている。

再審開始となり、久間さんの無実が明らかになるということは、国が無辜の国民のいのちを奪ったということになる訳で、死刑制度そのものの存在意義が問われることになることは必至である。(同) 

 

 この弁護団の強い責任感の中から、この本は誕生した。

 主な内容は次の4点である。

 

1 飯塚事件ではDNA鑑定が行われ、久間氏のDNAが被害者から検出されたということになっている。

 しかし、この結果と異なる鑑定結果もあり、しかも、結果が警察の都合よく改変された可能性が高い。

 

2 血液型鑑定も行われているが、きちんとした方法での鑑定ではなく、真犯人と久間さんの血液型が異なる可能性が高い。

 

3 走行中の車から、犯行現場付近のカーブで、久間氏の車を見たという証言がある。

 しかし、カーブを走る車が、走りながら見たにしては、あまりに詳しい証言に、警察官が都合よく事実を誘導して証言させたのではないかという疑いが強い。

 

4 証拠上、久間氏と犯行とを結びつけない繊維鑑定も証拠になっている。

 

 残念なことに、この本は僅か80頁しかないにもかかわらず、分かりにくい。

 聞いたことも無いような検査方法や法学・医学用語などの専門用語が散りばめられている。

 前提となる事実が多すぎて、読み飛ばさざるをえない箇所も多々ありそうだ。

 

 そもそも現代人文社は「季刊刑事弁護」という刑事事件の弁護人向けの専門雑誌を発行している出版社だ。

 そこが出しているこのブックレットも、もしかしたら刑事裁判に関わる弁護人向けなのかもしれない。

 

 しかし、無実の人間を国が殺しているかもしれないという重たい事実については、国民全体が考えなければならないことだ。

 というのも、次に殺されるのは、あなたやあなたの家族かもしれないからだ。