『大人のための国語ゼミ』 大人ではなく高校生ぐらいに読んでほしい本

野矢茂樹『大人のための国語ゼミ』山川出版社、2017。 

大人のための国語ゼミ

大人のための国語ゼミ

 

 

 野矢茂樹先生といえば『哲学航海日誌』(1999年)から『心という難問 空間・身体・意味』(2016年)にいたる、一連の哲学的な本が有名だ。

 大学生の頃にこれらの本を読んだとき、明晰な語り口に感動した。

 哲学という極めてとっつきにくいとされるテーマ――それはおそらく大きな誤解で、社会にとって不幸なことだ――を、わかりやすく、なおかつ、正確さを失わず、しかも、面白く語る力は第一級だと思う。

 

 そんな野矢先生は、論理トレーニングといった論理学の入門書の分かりやすさにも定評がある。

 『大人のための国語ゼミ』はその最新刊といっていいだろう。

 野矢先生の文章を書く力の源泉を垣間見るかのようだった。

 

 本書の目的は、理解する事、理解してもらえるようにする事といった、コミュニケーションの大前提の力を身に着ける事だ。

 理解できないものや、自分が理解されない事は、つらく悲しいものだ。

 その悲しみが怒りに変わり、暴力へと向かっていく例は枚挙にいとまがない。

 本書は、人々が共に生きていくうえでの重要な力をつける、価値のある一冊だといえる。

 

 そして、そのような目的であり、価値があるが故に、高校生くらいにも読んでほしい一冊でもある。

 もう、理解できないものを理解する努力や、自分を理解してもらおうという試みを放棄した大人にならないように、子どもの内から力をつけて欲しい。

 重大なテーマではあるが、その内容は極めて読みやすい物語だ。

 前から順番にゆっくりゆっくり読み進めていけば、きっと読み通せる。

 

 自分は、読み通した今から、実践しようと思う。