『百万光年のちょっと先』 「宇宙に2人だけみたいだね」って感じのショートショート

古橋秀之『百万光年のちょっと先』集英社,2018。 

百万光年のちょっと先 (JUMP j BOOKS)

百万光年のちょっと先 (JUMP j BOOKS)

 

  古橋秀之先生の新しい作品が出るということで、即座に購入を決めた。

 古橋先生といえば、『ある日、爆弾がおちてきて』が名作だ。

 時間をテーマにしたSF作品集で、設定もストーリーも、思春期だった私にはとても心に染み渡ったものだ。

 

 今回の本は宇宙をテーマにしたSF作品集。

 SFらしい「近未来」とか科学的な設定はそこそこに、アラビアンナイトや今昔物語のようなおとぎ話の雰囲気で満ちている。

 全ての話の出だしは「百万光年のちょっと先、今よりほんの三秒むかし」。

 語り手は旧型のアンドロイドという設定で、聞き手は幼い男の子である。

 

 話の舞台は「宇宙の果て」だの、「中心」だの、「破壊された惑星」などという圧倒的スケール。

 舞台の広さの割に、短編ゆえの制限であろうが、どれも登場人物の数は必要最低限に抑えられている。

 ジャンルは風刺的なものや、寓話的なもの、単純なコメディ等様々だが、おススメはなんといってもラブストーリーだ。

 古橋先生の描くラブストーリーの透明な切なさは『ある日、爆弾がおちてきて』の頃から変わらず美しい。

 しかも、挿絵は天下のラブコメ漫画「To Loveる」の矢吹健太朗先生だ。

 

 登場人物や広大な舞台、そしてラブストーリー。

 まさに「宇宙に2人だけみたいだね」の世界を堪能できるのである。

 

 ラブストーリーはちょっとという人も大丈夫。

 何せ50作も短編が収録されているのだ。

 きっとお気に入りの作品が見つかるはずである。

 1つの短編が5分から10分くらいで読めるので、子どもの朝読書などにはうってつけだろうと思う。